つまらぬものを斬ってしまった

誰の琴線にも触れないであろう日常のカタルシス

黄昏と子供心とバスの影【その2】

 

 

どーも、まままっこりです

前回の記事の続きです

 

 

www.mamamaccori.com

 

 

ココまで読んでくださった方

ありがとうございます

ココからも読んでやってもいいぞとゆー方

やっぱりありがとうございます

 

でわ、続きをどーぞ・・・

 

 

 

 

【小山君の章】

 

 私たちは5年生になっていた

 

小山君は私の隣の席だったので

男子の中では、よく話をした

彼はとても頭が良かった

 

勉強家ではなかったと思う

宿題すらしてこなかったぐらいだから

授業以外の勉強はしていなかったと思う

しかも彼は、学校にもあまり来なかった

学校に来ない日は

家で好きなゲームをコンプリートしていたようだ

それでも、テストの成績は良かった

 

たまに学校に来ると

ゲームや漫画の話、社会情勢、ミュージシャン

色んな話を聞かせてくれた

 

まるでお父さんと話しているような

政治や経済の話は当時の私にはチンプンカンプンだったが

彼の巧みなボキャブラリーは面白くて分かりやすかった

総理大臣の名前すら知らなかった私は

彼から中曽根康弘竹下登の存在を教えてもらった

 

当時、私のことを好きだった林谷くんが

理論武装して小山くんに何度も挑んでいたが

いつもあっさり論破されていた

 

ある日の休み時間


黒板の前で友達と談笑していた時だった

小山くんがやってきた

なんと言われたかはハッキリと覚えていないが

私は小山くんにからかわれ

とても腹を立てた


反論しようにも口では一切敵わない

ことごとく正論で押さえ付けられた

私は更にイラついて

小山くんのみぞおちに蹴りを入れた


私より随分大きかった小山くんが

凄い勢いで飛んでいった

 

小山くんは、しりもちをついて固まったまま

ちょっとだけ唖然としたが

状況を把握したのか

遅れて痛みが来たのか

はたまた

女子に蹴られてぶっ飛んだ姿を

グラス中に見られたのが恥ずかしかったのか

彼は泣き出してしまった


そこにちょうど先生がやってきて

私たち二人はは職員室に呼ばれた


先生が尋ねる

「何があったか話しなさい」

実はすでに私は

彼を蹴ってしまったことを後悔していたが

どうしていいか分からないでいた

私は黙った

先生は泣いている小山くんに改めて聞いた

「何があったか話してごらん」

小山くんはしゃくりあげながら

私に蹴られたことを話した

どうして蹴ったのかと先生に聞かれたが

私は答えなかった

 

先生は

「何があったにせよ、手を出すのはいけない」

と、私を諭した

それは分かっている

もう後悔している

だから、ちゃんと謝るタイミングが欲しい

そして、小山君にも

僕も言い過ぎてゴメンと言って欲しかった

 

「先に手を出した方が、全面的に悪い」

先生は重ねて言った

「まっこり君、謝りなさい」

私は更に黙った

それでは謝れと先生に言われたから謝るみたいだ

形だけの謝罪になってしまうではないか

 

私は先生から目をそらさなかった

 

なぜか悔しかった

確かに、先に手を出した私は悪い

実際には、手ではなく足だが

 

言い訳はしない

形だけの謝罪も御免だ

 

だから黙るしかない

 

すると先生は小さくため息をついて

こう言った

「小山君の代わりに

先生がまっこり君にビンタします

それで小山君はまっこり君を

許してやりなさい」

 

小山君は返事をしなかったが

先生は実行した

 

「今から先生がビンタをします

小山君が貴方から受けた痛みと一緒です

目をつぶりなさい」

 

私は目をつぶらなかった

 

瞬きもせず、じっと先生の目を見続けると決めていた

 

先生の大きな手が左頬をピシャッっと叩いた

 

理不尽だ

 

当時、理不尽とゆー言葉を知らなかったから

モヤモヤとしたものだが

これは理不尽とゆーやつだ

 

全く納得がいかない

 

私は、先生に叩かれる筋合いはない

私に報復していいのは小山君であって先生ではない

私のことを叩いていいのは小山君だ

グーで殴ろうが、とび蹴りしようが

小山君が実行すべきだ

 

先生に叩かれたって

小山君に許されることにはならない

 

悔しすぎて震えた

 

悔しすぎて涙が出そうになったが

 

絶対、絶対、泣くものかと

 

平気な顔をして職員室を出た

 

小山君はまだ泣いていた

 

私に蹴りを入れられたときの涙とは違う涙だ

 

私はもっと平気そうな顔をして見せた

 

これで、チャラだ

 

 

30年以上経っても

私からこの記憶は消えない

 

このあと、少しだけ私たちはギクシャクしたが

それも少しの間だった

私の暴力事件も笑って話せるようになっていた

 

 

でも、小山君が学校に来ない日が

少しずつ増えていった

 

小山君が学校を休んだので

先生が、誰か家の近いものに

プリントを持って行くように言った

 

私はちょうど帰り道だったので

プリントを持って

小山君の家に行くこととなった

 

5階建てのビルの1階部分に

各階ごとに並んだ郵便受けを眺めながら

表札らしきものを探したが

小山の文字は無かったので

そのまま階段を上って

先生から聞いた部屋番号を探した

 

人気の無い通路にランドセルがガチャガチャと響いた

 

たぶん、ここだろう

 

インターホンのボタンを押してみたが

音が鳴ってる様子が無かった

 

仕方がないので、ドアをノックすることにした

少し勇気がいる

 

ガンガン!

鉄製のドアがうるさかった

 

しかし応答はない

誰も居ないのかな

 

ガンガン!!もう一度ノックしてみた

 

やっぱり反応は無い

 

ドアについてる郵便受けにプリントを挟んで帰ろう

そう思って郵便受けの口を開いたとき

 

中からTVの声がした

 

誰かいる

 

ガンガン!!「すいませーん」

 

もう一度ノックして声を掛けてみた

 

でも、誰も出てこない

 

その日はあきらめて帰った

 

 

それから、しばらくして

先生に、またプリントを頼まれた

 

同じようにドアをノックしたが

誰も出てこなかった

早々に郵便受けをのぞいたら

やっぱり人の気配がする

 

この間より大きな声で呼んでみた

 

「すいませーん!小山くーん」

「まっこりでーす、プリント持ってきたよー」

 

すると、ドアの横の窓が少しだけ開いた

女の人が顔をのぞかせて

「はい」と小さく言った

 

お母さんだろうか

でも、うちのお母さんとは全然違う

すこし気だるい雰囲気で

「女性」って感じの女の人だった

 

「あ、小山君のクラスのものです

小山君はいますか?」

 

その女性は私をじっと見て

「息子は具合が悪いから会えないの」

と言った

 

私はプリントを母親に渡したが

その母親の後ろに

チラっと小山君が見えた

 

小山君は不安そうにコチラを見ていたが

 

具合が悪そうには見えなかった

 

母親が小山君の方を振り返ると

小山君は部屋の奥に引っ込んでしまった

 

 

その帰り道

私は、何か悪いことをしたような気分になった

小山君は

私や他のクラスメイトが知らないような

誰にも言えない苦労をしているのかもしれない

 

なぜか

池田君の顔がよぎる

あの時と同じにおいがした

このままもう

会えないような気がした

 

 

そして

やっぱり小山君は

二度と学校に来ることは無く

一緒に6年生になることも無かった

 

 

冬になると

彼らを思い出す

 

同窓会に姿を現すことも

島のどこかで偶然ばったり会うこともないだろう

 

彼らが私を思い出す瞬間すらないだろう

 

それでもいい

 

私は勝手に祈っている

 

私の知らない新しい土地で

 

当たり前に幸せでいますように

 

彼らが私にくれた優しさの

 

何十倍もの暖かい光が

 

常に降り注いでいますように

 

 

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