つまらぬものを斬ってしまった

誰の琴線にも触れないであろう日常のカタルシス

黄昏と子供心とバスの影【その1】

 

 

どーも、まままっこりです

 

今回の記事は

ちょっぴり長くなりそうなので

2部に分けて書こうと思います

しかも暗い

読み流してくれたら幸いです

 

 

私の住む南の島でも

最近は少し寒くなってきて

やっと冬らしくなってきたところだ

 

冬になると思い出すことが二つある

いや、思い出す人が二人いる 

 

寒くなると何故か

二人がそれぞれ

元気でいるのか

気になってしまう


それは、私がまだ小学2年生のころ

 

私はバス通学生だった

私の乗るバス停は

通学バスのスタート地点だった

 

私は登校時間ギリギリの時間に来る

7時45分「平田町行き」とゆーバスに

友達の弘美とよく乗った

 

その一本前のバスはとても混んでいて

低学年だった私たちは、5.6年生のランドセルに

押し潰されて乗らなければならなかったし

当時好きだった男の子が

その時間のバスによく乗っていた

 

声をかけろと弘美に背中を押されるが

そんな勇気がなく

ただ、寝癖のちょこんとはねた後ろ頭を

眺めるだけでだいたい終わった

 

でも今日は

そんな初恋の男の子の話ではない

 

次のバス停で

必ず乗ってくる男の子がいた

 

同じクラスの小山くんだ

 

小山くんは

私たちの学年では最も背が高く、色白で

ほんの少しだけ肉付きのよい体型だった

小2にしてすでにランドセルが

似合わなかったのを覚えている

目は切れ長で髪は短く刈り込んでいて

どこかひょうひょうとして見えた

 

夜遅くまで起きているらしく

朝に弱いようだった

今思えば

前日に飲みすぎたサラリーマンみたいだった

 

それから二つバス停をすぎて

その次のバス停で乗ってくる男の子がいる

 

同じクラスの池田くんだ

 

池田くんは私と同じくらいの身長で

手足がとても長くて細くて

どちからとゆーと色黒で

羨ましいほどサラサラの髪と

パッチリと大きな、クリクリの目をしていた

朝から明るく元気いっぱいに

オハヨー!とあいさつしてくる

その後ろから、3才年上のお姉さんも静かに乗ってくる

 

私たちを乗せた7時45分のバスは

7時56分から57分の間に

小学校近くのバス停に到着する

 

そこから3~4分で横断歩道を二つ渡り

校庭を突っ切り、靴箱から更に

校舎の2階までみんな全速力で走る

 

教室に向かって廊下を歩いている先生を

途中で追い抜き

無事朝礼に間に合った

 

もちろん間に合わない日もある

 

横断歩道を横切る車の列が

なかなか途切れなかったり

押しボタン式の信号が壊れていたり

先生の機嫌が悪く

廊下で全速力を注意されたときなどだ


まあ、とにかく

私にとって二人は

毎朝バスに乗り合わせるのが共通点の

普通のクラスメイトだ

 

【池田君の章】

 

休み時間になれば

池田くんは同じクラスの男の子たちと

プロレスをしたり

校庭にサッカーをしに行ったりと

ごくごく普通の、それこそ普通の男子だった

 

たまに冗談を言ってくることもあったが

人を傷つけるようなことは決して言わなかった

ちょっと天然で、おとぼけで

決して悪目立ちする子ではない

男子女子問わず、誰からも愛される子だった

 

私も彼とは話しやすかった

人との距離感を知っているような

気を使わないとゆー気の使い方を知っている

そんな印象の男の子だった

 

ある日、私と確かもう一人の女の子と

池田君のお家に遊びに行くことになった

池田君のお家は

私の家から少し離れた

山側の坂道を200mほど上ったところにあった

とても大きくて立派な家で

レンガ風のタイルがお洒落だった

 

お家の近くまで池田君が迎えに来てくれた

お家に着くと池田君のお姉さんもいて

歓迎してくれた

 

私たちはその広いお家で

かくれんぼをしたり

飼っているハムスターを見せてもらったり

とても楽しく過ごした

ハムスターのお尻が臭くて

ゲラゲラ転げて笑った

 

3才年上の池田君のお姉さんは

池田君とそっくりな顔でショートヘアーの可愛らしい人だった

最初は人見知りでおとなしい感じだったが

下の名前が私と同じだったので

親近感を持ってくれて

その日を境に、学校でも私のことを可愛がってくれた

 

子供は、学校の外で一度でも遊ぶと

グッと距離が縮まるものだ

 

私が忘れ物をして先生に怒られてしまい

漢字100字の罰を受けていたとき

池田君は、私の机の前を変顔で冗談を言いながら

通り過ぎていった

励ましてくれたのだろう

気が軽くなる

 

そんな優しい池田君

 

冬休みが終わって新学期になった

 

池田君は学校に来なかった

次の日もその次の日も

先生は池田君が転校したと一言だけ言ったまま

もう、池田君のことには触れなかった

 

後になって、クラスの誰かが親に聞いたと言って

池田君家族は夜逃げしたんだとふれて回った

教室中がざわついて

みんなその子の周りに円を作った

 

私は聞こえないフリをして

落書き帳にラムちゃんの絵を描いていた

たまたま登校していた小山君は

昨夜見ていたTVの話をやめ

お前、絵うまいなー、と

私の絵を褒めてくれた

 

とてもショックだった

 

池田君の親が何の仕事をしていたとか

そんなことは何も知らなかったが

あんな大きなお家だから

きっと何かの社長さんだったんだろう

 

でも、そんなことはどうでもいい

 

優しい池田君と優しいお姉さんには

もう、会えない

 

池田君たちは知っていたんだろうか

自分たちの家が置かれている状況を

知ってていつも、普通どおり

笑って

ふざけて

誰にも相談できないで

誰にも何も言えないまま

姿を消したんだろうか

 

それとも親たちは

ギリギリまでずっと黙っていたんだろうか

もし、そうだとしたら

池田君は友達に

さよならすら言えなかったではないか

お姉さんはいつも、私の頭をなでてくれた

それが大好きだった

 

私は、見たことも無い池田君の両親に

震えるほどの怒りを感じていた

 

でも、どうすることもできない

どうすればいいのか何も浮かばない

手紙を書こうにも、誰も住所を知らない

 

どうしたいのかも分からなかった

あなたたちが居なくなって淋しいとでも言うのか?

どこに行っても頑張ってねとでも?

応援してるよとでも言うのか?

いったい何様だ

 

悲しくて、家に帰ってから泣いた

弘美が遊ぼうと呼びに来たけど

眠いといって断った

 

それから日は過ぎて

クラスも代わり、一年も経つと

誰も、池田君のことは忘れてしまった

 

私も、忘れていた

忘れながら

たまに池田君の家の近くを通ると

ふと思い出す

今は池田君の家だったところは

何かの施設のようなものになっていて

玄関だったところに十字架が輝いている

一瞬だけ感慨にふけって

 

そして、通り過ぎてしまえば

また忘れる

 

でも、完全に忘れてしまいたくない

写真も無い

顔もおぼろげだが

忘れてしまいたくない

 

いつか、どこかで

もしも彼がうつむいているような事があったなら

彼の前を変顔しながら通り過ぎてやりたいと

まだ思っているから

 

 

 つづく