つまらぬものを斬ってしまった

誰の琴線にも触れないであろう日常のカタルシス

幸せのあり方について考えても結局今が一番幸せだとゆー事に気づく

どーも、まままっこりでーす

今日は少し内容が暗くなるおそれがあるので

そんな気分じゃない方は読まなくてよろしい!

それでもイイよって方はどーぞ

 

いらっしゃいませ~

 

 

 

 

私の内縁の夫は、色んな理由でお仕事ができなくなったので

私が働きに出て、夫が主夫業を担当している

 

男の人の方が家事に向いている

最近では心からそう思う

家事への取り組み方が真面目だ

 

でもこんな穏やかな毎日が過ごせるようになるまで

順風満帆できたわけではない

 

私達の住む島は田舎なので

こういった逆転夫婦への理解は薄い

50を過ぎた年齢でも、まだ働き盛りと見られているし

実際うちの父親も70歳でも現役に働いている

共働きならまだしも、嫁が一人で稼いでくるなんて

少なくとも私の周りには一人もいない

しかも14年も一緒にいて、いまだに籍も入れていない

だから世間の無言の風当たりは少し厳しい

 

「仕事もしない奴とは別れた方がいい」

「子供のことを考えたら別れた方がいい」

私のことを心配してる人達からは散々に言われた

 

夫が仕事をしていた頃は毎日のように

連絡のあった夫の友人や親類も、少しづつ離れていった

夫自身も、自分からは殆ど連絡をしなくなった

荒れて、酒に溺れて暴れだす日が長く続いた

苛立ちをぶつけられる相手は

私と娘しかいなかったから・・・

 

私への八つ当たりは我慢した

娘になるべく矛先を向けないように引き受けるつもりだった

でも娘はそれが我慢できなかった

私を守るために割って入り反論した

夫はさらに苛立ち、娘に罵倒を浴びせる

今度は私が我慢できなくなった

娘を守るために食って掛かる

いつも最後は三つ巴の修羅場になる

 

「子供のことを考えたら別れた方がいい」

 

誰かの言葉が何度も頭をよぎる

 

酒をやめさせよう

 

夫は完全にアルコール依存症になっていた

酒に飲まれて人が変わる

普段の夫は、少し古風で頑固なとこもあるけど

優しくて照れ屋な、かわいい人なのに・・・

 

家に酒を置くのをやめた

すると私の財布からお金を抜いて酒を買いに行く

財布にもお金を入れないようにした

今度は娘の財布からお金を抜いて酒を買いに行った

 

信じられなかった・・・

 

あまりに情けなくて

 

何とかしなくてはいけないと思った

 

見捨てて別れるのはたぶん簡単だった

娘のために・・・立派な理由はある

 

疲れて・・・いたんだと思う私自身

 

でも果たしてそれが正解なのだろうか

こんな状態のままの夫を一人放り出して

誰が面倒見てくれるというのだろう

それを考え出したときの結果は

一人ぼっちでうずくまる夫の姿しかなかった

 

夫には前妻の間に娘が3人いる

3人とももう成人して島を出ているが

その娘達から

「お父さんをよろしくお願いします」

私は

「絶対お父さんを守ります」

 

そう、責任がある

 

4年前に亡くなった夫の母親からも

亡くなる1ヶ月ほど前に

「あのこをどうか捨てないでね」

そう懇願された

 

私には、責任がある

 

アルコール依存症になってしまったのは

きっと私のせいでもある

絶対に更正させなくては

 

 

酒が抜けてシラフに戻ると

後悔と罪悪感でメチャメチャに落ち込む

 

「死にたい・・・」

 

夫はギリギリの所にいた

自分の包丁を持ち出して自殺を図ることもあった

車で崖から飛び降りると言って飛び出したのを

裸足で追いかけて車の前に立ちはだかって止めたこともある

 

私達にこれ以上迷惑をかけないために

自分にできることといったら

もう死ぬことしかない

夫の頭はそのことでいっぱいだった

明るい話題から極力目をそらして

私達からも距離を置こうとし始めた

 

私もギリギリだった

誰も笑わない日が続く

ただただ娘に申し訳なくてたまらなかった

まさに思春期の真っ只中だった娘に

いらぬ気苦労をさせることに

困窮した生活に我慢させることも沢山あった

幼い頃からずっと一緒にいた大好きだった人が

あまりにも変わり果ててしまった

 

娘は夫を名前で呼んでいた

初めて出会ったときに名前で呼んだから

そのまま名前で呼ぶことに定着したのだ

 

その後、幼稚園ぐらいだったか

私だけにこっそり

「自分も『お父さん』って呼びたい」

と言ってきたことがあった

「でも、3人の姉さん達が嫌な思いをするかもしれないから

やっぱり名前で呼ぶことにする」

小さいながらも気を使う子だった

いや、私がそうさせてしまったのかもしれない

 

私がシングルマザーだったので

娘は自分の本当の父親を知らない

物心ついたときには

「父親」とゆー存在に一番近いのは夫だった

 

「大きくなったらお嫁さんになる」

と、娘なら一度は言う常套句も言っていた

夫が店の厨房で魚をおろすのを

ずーっと見ているのが大好きだった娘は

小学生になると

「大人になったら料理人になりたい」

と言って夫を喜ばせたりもした

 

 

ある日、また夫が情緒不安定になった

怒りの理由は分からなかった

なんとかなだめすかしてやり過ごそうとしたが

手遅れの状態だった

家中、色んなものが散乱して

怒号が飛び交う

三つ巴の末

「家を出て行く」

もう何度も言ってきた台詞だが

何度も勢いで出て行っては帰ってきた

だけど毎回

「もしかしたら本当に最悪の事態になるかも・・・」

そう思ってしまう

今度こそどこかでのたれ死んでしまうかもしれない

 

「自分は何の役にもたたない

いまだにこの子にはお父さんとも呼ばれない

父親にもなれない、なる資格が無い

ただの足手まといにしかならない

もういない方がいい

どこか遠くで・・・

せめて迷惑のかからないところにいきたい」

 

夫が泣いていた

 

娘も泣いていた

 

私は一瞬ほだされそうになった

このまま引き止めることが

間違いなのかもしれないとさえ思ってしまった

夫が苦しそうで

私達に気を使われることが辛そうで

頑張りたくても頑張れない自分を一番許せなくて

娘のことも傷つけてしまう

その気持ちが痛いほど刺さって

私は、夫の望むようにしてあげたほうが

いいのだろうかと・・・心が揺らいで・・・

 

その時だった

 

娘がわんわん泣きながら夫に抱きついた

夫の足にしがみついて

必死で夫を止めていた

 

「お願い、どこにも行かないで

いてくれるだけでいいから

それだけでいいから

お父さんっていくらでも呼ぶから

一緒にいて一緒にいて」

 

夫は更に声を上げて泣いた

 

娘はずっと夫を離さなかった

 

私は今、手放しそうになったのに

 

娘はずっと離さなかったのだ

 

ずっと離さないまま、泣いて泣いて

ずいぶんな時間が経った

夫の癇癪は落ち着いて

その後、少し照れくさそうに小さく笑った

娘も少し笑って

「いきなりお父さんって呼ぶのは恥ずかしいから

おとうって呼んでいい?」

「うん・・・」

 

その日のことは、夫も娘も私も

一生忘れないだろうと思う

 

それから、夫は自分から酒を減らした

一日に一升も飲んでいた焼酎をきっぱりやめて

今は一日に缶ビール2本ほどになった

癇癪を起こすことはもう無くなっていた

 

そして、私が仕事に行っている間

洗たくをしたり掃除をしたり

私が何も言わないのに自然と

少しづつ家のことをするようになった

食事はもちろんプロの腕前

観葉植物や花を飾ったり

しょっちゅう模様替えしたり

もしかしたら女性よりも家事をこなす

 

まだ少し他人と関わるのは難しいけど

たまに心配して様子を見に来てくれる

数少ない存在に、素直に感謝できるようになった

少しづつ外にも出るようになった

釣りに行ったり

流木を拾いに行ったり

絵を描くためのインスピレーションを頂きに

海や、山や、星空を見に行ったりする

 

 

喧嘩はたまにするけれど

前みたいなのとは全然違くて

「仲直り」が前提にある

 

「腹減ったー」と娘が夫にくっついて

めんどくさそうに笑ってキッチンに立つ夫

それを眺める最高に幸せな瞬間

 

夫婦って紙切れ一枚でなるもんじゃない

 

血のつながらない親子も本当の親子になれる

 

お互いの弱さを認めてあげること

 

お互いの強さを信じてあげること

 

昨日の過ちを許してあげること

 

明日の喜びを分かち合うこと

 

最悪だと思っても

 

根底からひっくり返せば

 

最高になれる

 

必要なのは

 

それらを実行するために必要な時間だけ

 

だと思う